- 使用者の基本(1) 小難しい話ではなく、使用者なら「基本のき」として覚えておかなければならない労働法ルールをいくつか。「当然知っているはず」の基本ルールが守られていない例が目立つので、念のためです。知らないと小ばかにされても仕方ないし、知らないために大火傷しても自業自得ですよ!
- 使用者の基本(2)まず、「ウチは零細企業て、労働基準法には加入していません」という経営者が後を絶たないが、一人でも雇っていれば労基法も労働契約法も労組法も適用される。相手が正規雇用でなく、パートでもアルバイトでも有期雇用でも派遣労働者でも同じ。
- 使用者の基本(3)「残業しても割増賃金はもらいません」という一筆を書かせても、一日8時間、一週40時間を働かせれば割増賃金を払わなければなりません。割増賃金の支払いは、「必ず労働者に払う」ということを国家に対して負っている義務なのです。上記のような合意は無効です。
- 使用者の基本(4)「変型時間制を採用したからもう割増賃金は払わなくてよい、残業も休日労働も自由にさせられる」と思ったら大間違い。変型労働時間制は、法にのっとって厳格に作らなければならず、労基署に届け出なければなりません。実際には、使用者の自由度は変型労働時間制では高まらない。
- 使用者の基本(5)「ウチにはウチのルールがある」は通用しません。どんなに社内で慣行化していても、労基法に反するルールは、ごくまれに過半数組合や過半数代表との協定を労働基準監督署に届け出て認められた場合以外は許されません。会社は私物ではなく、公器です。
- 使用者の基本(6)たとえば、「体罰でうまくやってきた」「バカ野郎!とか死ね!とか言ってやる気を出させてきた」「部長に尻を撫でられたら愛想笑いで応えることで和気あいあいの社風を作ってきた」etc・・・ いずれも違法行為。市民社会で通用しないルールは会社でも許されない。
- 使用者の基本(7)会社に労働組合ができそうになったら使用者は絶対にこれにちょっかいを出してはなりません。まして「ウチには労働組合は必要ない」などと公言すれば明確な違法行為となります。労働組合はあって当然であり、どのように良質で生産的な労使関係を築くかだけを腐心してください。
- 使用者の基本(8)労働組合ができること、労働組合が団体交渉を要求すること、ストライキを打つこと、いずれも憲法で直接保障された基本的権利ですから、使用者はこれらを誠実に受け止めて、労組を尊重し、対等な話し合いですべてを解決するよう努める義務があります。
- 使用者の基本(9)派遣労働者であろうとアルバイトであろうと、有期雇用労働者であろうと労働組合を作って団交を要求することができることにも注意。また、一つの会社にいくつでも労働組合は作れます。そして使用者はすべて平等に扱う義務があります。、ある組合だけに加担するとそれも違法行為。
- 使用者の基本(10)労基法は違反すると刑罰が用意されているので、労基法違反は「犯罪」です。使用者が労働者に残業させて割増賃金を払わないのも、賃金をごまかすのも、比喩ではなく事実として、泥棒や詐欺と同じ意味で「犯罪」です。労組法に違反すれば労働委員会という行政機関から処分されます。
- 使用者の基本(11)以上、使用者の「基本のき」のごく一部です。本来は、こんなことは当然守られていて、もう一歩先の課題に取り組むべきなのです。規制緩和が進まないのも、こんな基本ルールさえ守らない使用者が多すぎることに一因があることを、使用者たる方々はよく認識していただきたい。
- (付録)使用者が胸を張って、「労基法も労組法もすべてきちんと守っている。しかし、こういう不都合が生じている。だから規制緩和が必要だ」と言えるようになって初めて、労働法制をめぐる「規制緩和か」「厳格化か」とく議論も実りのあるものになるでしょう。
- (付録の付録)もちろん、ひどい労組、困った労働者がいることも事実。それを正すためにも、まずは使用者の「基本ルール無視」がここまで目立つ状況を改善することが不可欠。他の先進諸国のように、せめて日本も、「対等な労使間で生じる問題」に取り組むという段階に進みましょう。
- (続)そうそう、就業規則に書いたことはそれだけでは労働者を拘束しません。よく周知させ、かつ中身が合理的な場合のみ。また、労働協約は就業規則より優先されるし、就業規則に記載された最低基準を下回らない限り個別合意も就業規則に優先するということにも注意。
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