北アメリカ最大の火山地帯に位置するイエローストーン国立公園では、ここ数年間で半径数キロの地面が大きく隆起している。“超巨大火山(スーパーボルケーノ)”の活動が活発化した影響との見方もある。
イエローストーンは火山噴火が頻発する地域であり、過去210万年の間に3度の巨大噴火が発生した。いずれの 規模も1980年にセントヘレンズ山で起きた大噴火の1000倍に達する。約64万年前の最後の大噴火により、イエローストーンの巨大カルデラは長径約 60キロ、短径約40キロまで成長した。
その後、約7万年前までの間に30回前後の小規模噴火が発生し、カルデラに堆積した溶岩や火山灰によって現在の比較的平坦な地形になったと見られている。
2004年初頭の調査によると、カルデラの地表面が年間およそ7センチという速度で隆起していた。2007年から2010年までは隆起速度が年間1センチ以下にまで鈍化したが、火山周辺には、累積で25センチも隆起した地点がある。
イエローストーンの火山活動について長年研究を続けているユタ大学のボブ・スミス氏は、「最近の地表面の隆起は、その範囲の広さやスピードから異常事態と言わざるを得ない」と語る。
専門家の間では、地下7000?1万メートル付近にあるマグマ溜まりの膨張が隆起の原因になっているという見方が強い。ただし、今回の隆起に関しては噴火の前兆ではなさそうだとスミス氏は言う。
「われわれも当初は噴火を心配したが、マグマ溜まりが地下1万メートル付近に留まっており、その心配は払拭された。もし地下2000?3000メートル付近にまで上昇していたら憂慮すべき状況だったろう」。
急激な地盤変動の調査、研究を持続すれば、マグマ溜まりで何が起きているのかを知る重要な手掛かりが得られる。イエローストーンでいつ噴火が起きるか予測できるようになるだろう。
スミス氏が率いるアメリカ地質調査所イエローストーン火山観測所の研究チームは、GPSや干渉合成開口レーダー(InSAR)などのデータから、カルデラの地盤が隆起および沈降した地点を網羅した地図を作成。地盤変動の状況を数値的に計測した。
地盤変動は噴火の前段階、つまりマグマの上昇に伴って起こる場合がある。例えば1980年のセントヘレンズ山大噴火では、その数か月前に山腹の複数箇所で急激な隆起が観測されている。
だがイエローストーンの超巨大火山のように、地表面の隆起と沈降を数千年繰り返しながらも噴火に至らない例は世界中にたくさんある。
現在のイエローストーンのマグマ溜まりには、地球内部のマントルから急激に上昇した高温の岩石プルームが充満しているらしい。マグマ溜まりは、内部に流 入するマグマの量が増加するにつれて膨張し、その圧力で上部の地表を押し上げる。今回の事例をさまざまなモデルで検証してみると、隆起が始まってから年間 0.1立方キロのペースでマグマが増加している。
理論的には、流入速度が低下すれば、溜まったマグマは水平方向に拡散しながら冷却、凝固し、その時点で地表面も元の状態に戻ると考えられている。イエ ローストーン地下のマグマ溜まりは、約1万5000年から現在まで周期的に膨張と収縮を繰り返し、このサイクルは今後も続く。
スミス氏はこう話す。「イエローストーンのカルデラは隆起と沈降を繰り返す傾向にある。ただ、ごくまれにマグマが地表付近まで上昇すると、熱水の噴出や地震などの現象が現れ、場合によっては噴火する場合もある」。
ただし、噴火時期の予測は非常に難しい。というのも、イエローストーンの地下でどのような地質活動が営まれているのか、詳しいことはまだ判明していない からだ。それだけではない。継続的な観測が始まったのは、1970年代に入ってからである。40年は地質年代の尺度で見ればあまりに短く、収集したデータ から結論を導くことは到底できないだろう。
イエローストーンの地質現象について研究しているアメリカ地質調査所カスケード火山観測所のダン・ズリシン(Dan Dzurisin)氏は、「イエローストーンで起きる地盤変動の仕組みは、調査技術が進歩すればするほど、その複雑さが浮き彫りになってきた」とコメント している。
今回の研究結果は、「Geophysical Research Letters」誌2010年12月3日号で発表された。
引用元: ニュース – 環境 – 米イエローストーンで地面が急激に隆起(記事全文) – ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト.
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