“綺麗事でメシを食う”ことのリスク。

自分が関わったことのある人が、殺されたことはありますか? 私はあります。

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バレンタインデーはチョコレート会社にとっては一番のかき入れ時。でも、今、人権活動家たちが、「原料のカカオがどのように生産されているか考えてほしい」と訴えているそう。

たとえば活動家団体「グリーン・アメリカ」は、消費者からハーシーの経営陣に直接電子メールを送り、“児童強制労働とは無縁であるというお墨付き”のカカ オを使用するよう要求すべきだと訴えており、7日までに1万通以上のメールが送られたそうだし。(ハーシーの広報担当者は、同社はカカオ生産地で搾取的な 労働が行われないよう手助けしており、生産技術や教育に役立つ支援も行っていると反論している。)

別の活動家団体「Avaaz」に至っては、コートジボワール産のカカオをボイコットするよう主張(同国は世界第1位のカカオ大国で、昨年は120万トンを 生産)。“長年内戦の続くコートジボワールでは、昨年11月の大統領選挙で国連が認めた投票結果では敗北となったバグボ大統領が引き続き権力の座にあり、 国際社会から辞任の圧力にさらされている。同国のカカオは、バグボ政権の資金源となっている”というのが、不買運動の根拠。

確かに、どんな問題でも、まずはそこに問題があるのだということを提起するのが、解決に向けての重要な第一歩なのだけど。「望ましくないやり方であっても、それでごはんを食べている罪のない人たち」のケアはどうなっているのかが気になる。

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十数年前、会社員をしていた頃、南米の珈琲豆を輸入する仕事の担当をしたことがある。当時は「フェア・トレード」なんていう言葉も概念も日本にはあまり浸透していなくて、一部の市民運動家だの、オーガニック食品に詳しい人間だのが知っているという程度だった。

輸入するのは、ペルー・メキシコ・グァテマラの3国で有機栽培された珈琲の生豆。当時、それらの国の珈琲ビジネスはすべてマフィアがからんでいて、怖ろし いほど安い価格で農民から買い取っていた。さらに、政府高官が薬品メーカーやマフィアと癒着していて、先進国では既に販売しにくくなっていた強い農薬を、 「これを使わなければ虫や病気が発生するのだ」といって農民たちに買わせ、半強制的に使わせてもいた。ただでさえ利益の薄い珈琲生産者に、農薬の経費が重 くのしかかる。それだけでは食べていけない農民は、大麻栽培などに手を出すしかなくなる。大麻ビジネスで、また、マフィアが潤う。

「搾取されている農民たちが正当な報酬を得られるように」「農民がマフィアの資金獲得に利用されないように」「不必要な農薬など使っていない安全な珈琲豆 を手に入れるために」…等々の目的のため、アメリカの珈琲メーカーとNGOが現地に農園を持った。マフィアを通さず、農民が珈琲会社に直接珈琲を売るとい うビジネスを立ち上げたのだ。農薬を使わずに育てたそれらの生豆は、有機認証団体によって検査が行なわれ、「オーガニック農産物である」という承認を得 て、より付加価値を増した農産物として流通される。

それに乗ったのが、当時、私が勤めていた会社だった。私の仕事は、現地に駐在しているアメリカ人スタッフ(珈琲会社やNPOの)と連絡をとり、「各生産国 の生産者情報や生産履歴を入手し、フェアトレードな商品であることを日本の消費者に伝えること」「3つの生産国からいったんアメリカに集めた生豆を、1つ のコンテナにして、日本に輸入すること」「その生豆を日本の珈琲メーカーに卸すこと」「それら日本のメーカーが日本人好みに焙煎した製品を、今度は自分の 会社が仕入れて販売すること」だった。「輸送途中で虫などが発生し、日本の港で検疫にひっかかって薬品による燻蒸処理を受けた場合(オーガニックという付 加価値を失った場合)、別のルートに安く売りさばく」という道も確保しておかなければならなかった。

「顔の見える関係」をテーマに、国内だろうが国外だろうが、生産者の名前や顔写真、人となり、生産履歴などを積極的に公開していくのが、当時私がいた会社 のやり方だった。が、現地のアメリカ人スタッフたちは、「生産者は、顔も名前も公表できない」と言ってきた。「我々の農場で働いている生産者は、マフィア にとっては裏切り者だから、日常的に様々な嫌がらせを受けている。ひどい病気になって病院に行きたくても、それを邪魔されて治療が受けられず重症化した者 も出た。だから今、我々は、通院や買い物の時にはクルマで送迎するようにしているし、子どもたちには我々が作った小屋で読み書きを教えている。こういう状 況で、“フェア・トレードの珈琲を生産している生産者”と、ヒーローのように日本で顔や名前が出ることは、色々な意味で刺激やリスクが大きすぎると考え る。顔が見える関係だということが確認できるよう、あなたには生産者の名前や顔写真を送るが、それは消費者には決して公開しないでもらいたい。念のため、 あなたも記事には名前を書かないことをお薦めする」という内容の連絡だった。

それでも、一部の生産者と手紙や電話でやりとりをすることが出来たし(アメリカ人スタッフに通訳・翻訳してもらいながら)、農薬使用の有無や残留農薬等に ついては有機認証団体が検査した際の書類で確認することが出来たから、極めて慎重にではあったけど、輸入販売をスタートさせることが出来た。

が、何度目かの輸入を控えていたある時、悲劇が起こった。いったんアメリカに向けて輸出する生豆を農園から運んでいたはずのトラックが行方不明になったの だ。捜索の結果、運転手(生産者たち)は撃たれ、たくさんの生豆を積んだトラックもろとも谷底に落ちて亡くなっていたことが分かった。

フェアトレードってのは、そういうリスクと常に隣り合わせの仕事だということ。

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マフィアだの悪徳政治家だのの息がかかっていない農産物、子どもの強制労働がない農産物、フェアトレードの農産物……というと、先進国の消費者は「いいね え」「こういうのを選ぶべきよね」と言う。それは良いことなのだ。やはり、フェアトレードはもっともっと広がっていくべきだと思う。

ただ、なんというか、「上っ面だけ見て、フェアトレードじゃないからダメ…とかって、簡単に言ってほしくねーんだよ(←つい言葉が乱暴に…)」って気持ちが強くて、こういう記事を見るとあまり気分がよろしくない。

それは日本の農産物でも同じ。真面目に農業をやって農薬も減らしているけれど、さまざまな理由から(経済的理由、あるいは農業に対する哲学の問題)、あえ て有機認証は取得していない…という生産者もたくさんいるのだ。簡単に、「うちは有機農産物じゃないと扱わないんですよね〜」って一蹴するバイヤーは、 「モノを知らねーなコイツ(←また言葉が乱暴に…)」と思ってしまう。

引用元: “綺麗事でメシを食う”ことのリスク。 日々是まぁまぁ好日 再び)/ウェブリブログ.

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