立ち上がった「沈黙の世代」の若者

ニューヨーク・ウォール街で全米から集まった若者が連日デモを実施。訴える内容は漠然とした脱資本主義思想。
次のアクションや課題を参加者が話し合いながら決定していく。
アメリカ経済の中心都市で脱資本主義のデモが始まったことはなかなかインパクトがありそう。
同じようなデモが全米都市、世界中の都市へ飛び火する日も近いかも。

こんなデモは今までに見たことがない。

なにせ参加者のほとんどは、幼な顔の10代後半から20代前半。団塊の世代や、1960?70年代の反戦運動を経験した世代など、「戦争反対」「自治体予算削減反対」「人種差別反対」などのデモで毎度おなじみの顔は全くない。いや、彼らは今までデモに参加したことすらないのだ。

 

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Morgan Freeman 

ところが、「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠しよう)」を標語に、ウォール街から北に200メートルの広場に数百人が9月17日から野宿を続け、午前9時半の株式市場取引開始時と、午後4時の取引終了時の2回、段ボールのプラカードや太鼓、ラッパを持って、ニューヨーク証券取引所前を練り歩いている。

彼らはなぜここに集まっているのか。

「経済危機や貧困など、解決しなくてはならない問題がたくさんあるのに、企業の拝金主義が、こんなに僕らに消費を押し付けているのはおかしい。何とか仕組みを変えられるはず」(メイン州在住の男性、20歳)

「金融街など人口のわずか1%の人たちが世界を仕切っていて、99%の人々が苦しんでいるのはおかしい」(メリーランド州在住の男性、24歳)

「友達と15人でメイン州から来た。貧しい人も生きていかれるように、資本主義を変えるべき」(ベルギー人男性、19歳)

「父親が家を失い、自殺した。今の経済の仕組みを変えたい」(サンフランシスコ在住の女性)

このデモが変わっているのは、年齢層ばかりではない。参加者が訴えているのは、上記のように漠然とした「拝金主義のウォール街を占拠して、世界を変えよう」という主張だけで、次にどんな行動をするのか、課題をどう設定していくのかは毎日、「ジェネラル・アセンブリー」という話し合いで議論を同時進行させながら活動しているのだ。

私は18日夜、初めて広場に行って、週明けの翌朝、初めてウォール街でデモを展開する方法について決める合議を5時間見ていた。夜中ちかく、デモに行く「アクション班」と、今後の問題を考える「ディスカッション班」に分かれること、逮捕につながるような行為はせず、ウォール街の通勤者の歩行をさまたげないなどを議長団が提案。挙手による投票で満場一致で提案を承認し、「これがデモクラシーだ!」と胸を張った。

しかし、24日の週末は、全米からさらに若者が加わったため、1000人あまりの自発的なデモがニューヨーク市警と衝突し、100人近い逮捕者が出た。

現場にいたスペイン人のマリウスさん(19)によると、警察は何もしていない女性2人に催涙ガスを使用し、動揺した通行人も含む90人あまりが、警察が広げた赤い網の中に囲い込まれ、逮捕された。警察は、逮捕者を運ぶ車両が足りないため、通りかかったニューヨーク都市交通局のバスを止め、全員を警察署まで運んだという。

こうしたリスクを冒しても、参加者たちの表情はみな明るい。広場には市内や全米各地からの注文で届いたピザや水が常にある。組織はかなり確立されてきており、合議を導く「ファシリテーター班」、救急箱を持って歩く「医療班」、食料の寄付や調達を仕切る「フード班」がある。

なかでも、メディア班は重要な役割を果たしている。広場の真ん中に発電機を備え、常に数人がパソコンに向かい、合議やデモの様子をほぼ24時間オンラインの動画で流すほか、ツイッターやウェブサイトの更新から、警察の暴力を撮影したビデオを動画共有サイト「ユーチューブ」に貼付ける作業をしている。オンラインで情報を発しているお陰で、全米から若者が次々と参加し、さらに、当初は見向きもしなかった大手メディアが取材に来始めた。

このデモ活動はもともと、カナダのバンクーバーに本社がある環境問題を扱う雑誌「アドバスターズ」が、「9月17日にウォール街を占領しよう」と呼び掛け、それがツイッターなどのソーシャル・メディアを通して、若者層に広がった。

ニューヨークで広場の占拠に成功したため、シカゴ、サンフランシスコ、フィラデルフィアなど全米の10数都市でも「座り込み」が次々と始まっている。ツイッターでは、「シカゴで警察から歩道にいてはいけないと言われたが、法律に詳しい人の知恵を乞う」などと、情報交換もリアルタイムに進む。

「中東と同じように、デモを大きくすれば、何かが変わる」

母国スペインで失業問題を訴える数万人のデモに参加し、ニューヨークのデモの支援に来た女性はこう語る。

米国は中東と異なり、世界最大の経済大国で、言論の自由も保障され、失業率も中東や欧州ほど高くない。その米国の若者が立ち上がった。それだけ、目先の失業問題や経済危機の懸念だけでなく、将来の見通しの不透明感を、彼らが肌で感じ始めている証拠だ。彼らにどこまで何ができるのか、そして、ニューヨーク市警がいつ彼らを一掃するのか、はらはらしながら毎日広場をのぞいている。

引用元: 【津山恵子のアメリカ最新事情】立ち上がった「沈黙の世代」の若者 – WSJ日本版 – jp.WSJ.com.

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