■米国の大停電がきっかけだった
「エネルギー・電力システムの近代化は今まで以上に重要になり、世界的に優先すべき課題となる」「スマートグリッドはインターネット以上に大きな影響を及ぼすものになるだろう」
ギド・バーテル(Guido Bartel)氏は、「Interop Tokyo 2011」の基調講演で、このように話しはじめた。
バーテル氏は、米エネルギー省が進めるスマートグリッドの提言および標準化を進めるGridWise Allianceの会長。
エネルギー省の諮問委員会にも所属し、米IBMのエネルギーおよび電力業界分野のゼネラルマネージャーでもある。
GridWise Allianceの誕生は、2003年に米国北東部で起きた大停電がきっかけだった。
この停電で、5,500万人に影響が出、265ヵ所の発電所がオフラインになった。
これにより電気の将来はどうあるべきかが真剣に考えられ、ビジョン“GridWise 2030”が作られた。
GridWise Allianceはそれを実行していくための組織となった。
氏はGridWise Allianceの具体的役割について「20世紀の電気のシステムを、よりスマートなシステムにしていくこと」「複雑なバリューチェーンのなかでコンセンサスを作っていくこと」と説明した。
米国では停電やサービスの中断があった場合には、1500億ドルもの損失につながると言われている。
氏は、逆にこの数値はエネルギーシステムを変革していくチャンスでもあるのだと強調。
また、変革にはエネルギーのバリューチェーン全体を見直していく必要があり、官民の多種多様なステイクホルダーの協力が必要になるとした。
スマートグリッドでは、電力のみならず情報の流れも多方向になっていく。
あらゆるものが通信し、相互接続され、最適化される。
公益事業は双方向でエネルギーの流れをモニターし、コントロールすることが可能になる。
停電をすぐに検知でき、原因を突き止め、電力をりルートし、ユーザーに対してはいつ復旧するかを知らせることができる。
さらに、リアルタイムで需要を理解でき、ユーザーはいつどのようにエネルギーを使うかを決定できるようになる。
スマートメーターになると15分ごとに測定が可能となっていく。
スマートグリッドに対する動きは、特に米国で活発化しており、2009年から45億ドルを当てていくことが決定されている。
4月にアブダビで開催された会合では、米国がスマートグリドを強力に進めていくことがコミットされているという。
■各国で進む実証実験
現在、米国ではスマートグリッドに関して20のプロジェクトが進んでいる。
テキサスではほとんどの電力会社がスマートメーターを導入し、情報をひとつのポータルに集め、60の需要家に提供しているという。
また、米国のスマートグリッドの考え方の源になっているものとしては“Pacific Northwest GridWise Demonstration Project”が挙げられる。
国立研究所であるPacific Northwest National Laboratoryとオレゴンの電力会社、IBMなどが中心になって行っているもので、ワシントン州オリンピック半島の世帯に対しスマートハウスの環境を提供。
家電や温度も自動調節される。
同プロジェクトでは、前年よりピーク需要を15パーセント下げることに成功し、昨年は最高気温40度を越す猛暑があったにもかかわらず、これを維持したという。
氏は「これは625の発電プラントを排除可能にするほどインパクトのある数字だ」と話した。
同実証実験は5つの州に拡大され、60,000世帯を巻き込んで進められているという。
実に1億8700万ドルが投資され、その半分をエネルギー省が負担している。
また世界で初めて“スマートグリッドの国”になろうとしている事例として、地中海マルタ島の例が挙げられた。
マルタ島では、電力と水の供給にスマートグリッドが重要な役割を果たす。
同島で消費される飲料水の半分は海水の脱塩によるものであり、脱塩にかかる電力コストは膨大だ。
そこでマルタ島では25万台のスマートメーターを設置してリアルタイムに電力の使用を把握し、料金も変動料金制にする予定だ。
また電力供給もリモートでオンオフできるようにするという。
1970年代の古い技術から最新技術の導入へ急展開することで、より強力なナレッジベースの経済が作られ、人材を維持し投資も呼ぼうと考えているのだ。
ちなみに、日本でもこれらの議論は数多くされているが、スマートメーターの導入により個人に合わせた電力使用プランの選択も可能になると言われている。
ほかにも、グローバルで実証実験は行われている。
国内の電力の20%が風力発電でまかなわれているデンマーク。
不安定な風力発電の電力を電気自動車の蓄電にあてることが試みられている。
日本の北九州市では200世帯に対し70の企業が参加した実証実験が展開されている。
イギリスは45億円を投資し、スマートメーターの全戸導入を目指しているという。
バーテル氏は「オバマ政権では、スマートグリッドは国家の優先事項で進めてられており、あらゆる国でそうなるべきだ」と強調。
スマートグリッドを実現するため、(1)スマートなシステム設計、(2)オープンなデータスタンダード、(3)ガイドライン、(4)国際的なコラボレーションを重要事項として挙げた。
6月23日にはスマートグリッドに関する組織の英国版が立ち上がり、インドや中国でも同様の立ち上がりが期待されている。
昨年はスマートグリッドのダボス会議ともいうべき会合がワシントンで開催されたが、すでに11月8日?10日の日程で第2回の会合が決定しているという。
バーテル氏は、「関係分野の皆さんは是非参加していただきたい」と呼び掛けた。
引用元: 【Interop Tokyo 2011(Vol.33)】スマートグリッドは世界の優先事項だ……ギド・バーテル氏が基調講演 | RBB TODAY エンタープライズ、ソフトウェア・サービスのニュース.
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