やくざの仕方

やくざの仕方
やくざの人が来た。
いい機会なので、そこで見ておきなさいということになって、小1時間ぐらい見物していた(直接応対しなくても、聞く振りしないとやくざの人は気を悪くするのである)。
わりにやくざの人は来る。が、大抵は遠くの方で怒鳴っているか、面と向かって怒鳴っているかなので、今日のように観察できる機会はそう多くない。というわけで、よい機会であって、ゆっくり見物していた。

1.やくざは無理難題を懇願する。
やくざの人も忙しいので、用もないのに来たりしない。やくざの人はお願いに来る。普通に実現できる「お願い」なら、わざわざ「やくざ」して来る必要はないので、やくざが来るのは、「無理なお願い」をするためである。

2.やくざは当事者でない。
「お願い」の当事者は、やくざの人の友人だったり内縁の人だったりする。当事者は「お願い」する立場なので、それだけの「弱味」があって攻撃力が落ちる。 やくざの人が仮に「当事者」であっても、そのときは別のやくざの人が攻撃を担当する。もちろん「当事者」もいっしょにやってくる。そうでないとまた「お願 い」にならないのである。当事者はいっしょにきて、しかしあまりしゃべらない。やくざの人は「当事者」を代弁し、時折話の流れの中で、「当事者」に話を ふったりするが、あくまでイニシアティブはやくざの人がにぎらなくてはならない。

3.やくざは非を認める。
やくざの人は、用向きを言う。しかし「用向き」は「無理なお願い」であるので、それが「無理なお願い」であることは真っ先に認める。当事者に非があるとき は、先にそのすべてを認めてしまう。そうすることで応対者の反撃をあらかじめ封じる。なおかつ「非を認める」ことは、正しくて筋の通ったことを言うことで あるので、応対者もそれを止めることができない。つまりしゃべりまくれる。これでまず話の主導権を握るのである。

4.やくざは怒鳴る。
「用向き」は「無理なお願い」であるので、応対者は「それは、これこれこういう理由でできません」と答える。やくざの人の台本通りである。ここで一発、や くざの人は怒鳴る。怒鳴らないと、いかに格好がそれっぽくても、やくざの人である感じがしないからである。やくざの人の戦略としては、まず応対者に「私は やくざの人である」ということを分ってもらわなくてはならない。どれほどわずかでも、応対者に恐がってもらわなくてはならないのである。

5.やくざは応対者のいったことをまとめる。
怒鳴られて怒鳴り返す訳にはいかないので、応対者はまた理をつくして説明する。説明するしかないのである。やくざの人はそれを聞く。やくざの人はプロなの で、ちゃんと応対者がするくらいの説明は知っているのだが、この場では知らないことにしておかなくてはならないので、ちゃんと聞くのである。聞いて「おま えのいうのは、これこれこういうことやろ」と、応対者の説明をまとめる。この「まとめ」は、やくざの人の力量がでるところで、100%正解のまとめをして しまう人もいれば、50%くらいしか的を得てない場合もある。多分いちばん効果的なのは80?90%くらい、概ね正解なのだが違うところもある、しかしだ いたい合ってるのでそれをわざわざ指摘するには及ばないだろう、という「まとめ」であろう。応対者は「そうです、その通りです」と言わざるを得ない。

6.やくざは言葉尻をとらえる。
こうして「説明」→「まとめ」がしばし繰り返される。その後、突然「おかしいやないけ!おまえ、さっき、こう言うたやないか!」とやくざの人は来るのであ る。「こう言うた」内容は、応対者が説明した言葉だけでなく、当然やくざの人がまとめた「まとめ」も含まれる。「まとめ」に若干おかしいところがあったと しても、それを指摘せずに先に進んでしまえば、応対者もそれを承認したことになり、承認したことなら「言ったも同然」なのである。もっというと、応対者が 説明した事項でも、やくざの人の「まとめ」に含まれてなければ、それは「言ったことにならない」のである。「おれがこれこれこう言うたとき、お前『そうで す』言うたやないけ」なのである。

8.やくざは脱線する。
やくざの人は論理的な矛盾や単なる言い間違いを逃さない。逃さないだけでなく、しつこく追及する。「『つもり』?お前、いま『つもり』言うたな。おう、確 かに聞いたぞ。『つもり』って、何え?お前はそういう『つもり』かもわからんけど、そんなもん、俺には全然わからんやないけ。『つもり』いうのはな、『実 際はそうでないのに、そうであるかのような気持ち』ちゅうことや。辞書引いてみ、ボケ。大の男がわざわざ時間さいて、大事な話しに来てるちゅうのに、お前 『つもり』言うのけ!?そんないいかげんな、曖昧なこという奴に、大事な話ができるけ!」
と、「つもり」だけで30分くらいやるのである。その間、本題に話をもどそうとしても、がんとして受け付けない。「『つもり』が先じゃ。1段がないのに2 段があるけ!人間、何でコミュニケーションすんねん?言葉やろ!その言葉ないがしろにして、何で話が先進むんじゃ!」である。

9.やくざは緩急つける。
やくざの人も怒鳴ってばっかりではない。効果が逓減するし、第一本人がつかれる。怒鳴り続けたかと思うと、すっと声を押えやわらかく話し出す。「わしら、 お願いに来てんにゃ。そんなけんもほろろにやられたら、どうしようもないやんか。わしらかて、何もええ事してるとは思てへん。悪いもんは悪い。払ってない んやから、ダメなのもようわかる。どないしようもないのはよう分るんや。そやけど、こっちかて困ってるんや。払いとうても払えんときが、人間あるやろ。そ やけど、規則ちゅうもんがある。それは守らなあかんわな。そやから、何かええ知恵ないか思もて、こないして相談に来てるんや。わしらよう知らんしわからん けど、お宅ら専門家やろ。なんかええ手あったら教えてえな」
ここで、また同じ説明をすると「お前、わしの話、何聞いとったんじゃ!」と怒鳴る。仮に「何かええ手」があったとしても、「何でそれを先言わへんねん! さっきからダメやダメやの一点張りやったんとちゃうんか!わし、そんなもん、お前から説明されてへんぞ。そやろ、お前、言うてへんやろ!」と再び怒鳴るの である。

9.やくざはとにかくあやまらせる。
さっきの「つもり」だと、とにかく「『つもり』と言ってごめんなさい」と言うまで追及する。いまのだと「すいません、言ってませんでした」というのを応対 者が認めるまでやる。本題と何の関係がなくても、どんなささいなことでも、とにかく応対者にあやまらせるのが、やくざの人の大事な戦略である。
どんなことでもあやまると、少しであっても態度が引いてしまう。隙ができる。それがやくざの人の狙いである。

10.やくざはジグザクに攻撃する。
本題→言葉尻を捉えて脱線→応対者が謝る→本題→言葉尻を捉えて脱線→応対者が謝る→本題……と、やくざの人は、ジクザグに進撃する。一度応対者が謝る と、やくざの人はほんのわずかでも陣地を増やしたことになり、逆に応対者はなくしたことになる。やくざの人は勢いを得、応対者は逆に勢いを失う。多分、人 間と言うのは、そんなに数多く謝れないようになっているのかもしれない。5、6回も謝ると、「もうどうにでもして」みたいな感じになる。

11.やくざは「上のモノ」を呼ぶ。
「おまえじゃ、話にならんわ。上のもん、呼びいな。なんちゅう名前や」
普通なら言わないのであるが、「もうどうにでもして」状態であるので、つい上役の名前を言ってしまうのである。これでとりあえず1面をクリアー。やくざの人は次のステージへ。

12.やくざはくりかえす。
で、上役が出てきても、やくざの人はおなじ攻撃をする。応対者にすでに謝らしている分だけ、最初から1ステップ進んでいる。

(参考になりますかどうか・・)

引用元: やくざの仕方.

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