太陽光そのまま室内灯 家へ工場へ電力ゼロ照明

写真:太陽光照明システムを設置した森口さん宅。昼間は100ワットの電球をつけることはない。「太陽の光で朝から気持ちも明るくなります」=大津市
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写真:井上昇社長と開発した屋根材。「雨漏りしないことが一番大切」と話す=大津市

 

太陽の光をそのまま室内に取り込む照明システムが注目を集めている。電気を一切使わない「電力ゼロ照明」。住宅だけではなく、大企業の工場でも採用するところが出始めた。主役は大津市の街の電器屋だ。

 玄関からダイニングに一歩入ると、明るい空間が広がった。見上げると天井にある直径35センチの「丸い照明」が室内を照らしていた。蛍光灯かと思ったが「太陽の光がそのまま入ってきているんです」と説明された。

 大津市の会社員森口昭次さん(53)は2004年、自宅ダイニングの天井に「太陽光照明」を取り付けた。北向きの部屋は窓からの光はほとんど入らないので朝から暗く、電気照明がないと新聞も読めないほどだった。

 今では、同じ天井にある100ワットの電球2個は昼間はつけない。森口さんは「雨の日でも電球をつけるより明るい。この7年間でメンテナンスもしていない」とほくほく顔だ。

 屋根の上にある小さなドームで寄せ集めた光は、室内まで伸ばしたアルミ製の筒(チューブ)を通じて、室内に届く。筒内部で光が反射するので、明るさはそのままだ。特殊なカバーが部屋全体に均一に光を散らす。

 太陽の位置によって光の入り具合が変わる天窓に比べて明かりはほぼ一定。紫外線を97%以上カットするので、畳や家具の日焼けも防ぐ。熱も遮断され、室内温度も上がりにくい。設置価格は8畳間を照らす設備で25万円程度だ。

 販売するのは大津市の街の電器屋「井之商(いのしょう)」。04年に住宅用の販売を始め、07年には大型化して企業向けにも売り始めた。

 化粧品大手の資生堂は昨年5月、埼玉・久喜工場の倉庫部分約4200平方メートルに計82台を設置した。高さ7メートルの天井から降り注ぐ光の量は、それまでの水銀灯と変わらない明るさ。そのうえで電力量で年9万キロワット時、二酸化炭素(CO2)の排出量で年34.5トンの削減効果がある。

 きっかけは、東京ビッグサイトであった照明器具の展示会で、井之商と出会ったことだった。今では「想像以上の効果」(資生堂広報)と評価し、他工場への導入も検討している。

 企業ではほかにも、大手肌着メーカーが工場の事務所にこのシステムを採用。ファミリーマートの東京都内の店舗ではトイレに設置し、好評だという。

 今年3月の東日本大震災後は、電力不足の心配から関心が高まった。井之商への問い合わせは月20件程度だったが、震災後は企業を中心に月60件に増えた。これまでの設置実績は戸建て住宅用で2500台、工場用で700台にのぼる。

■きっかけは顧客の一声

 井之商の井上昇社長(59)が製品化を思いついたのは90年代半ば。大手家電量販店が滋賀県内に進出して経営が伸び悩んでいた時期だった。「天気がいい日でも、電気照明が手放せない。何か良い方法はないか」。顧客のこんな声がきっかけだった。

 だが、筒の中で太陽光を効率よく反射し、室内に伝えるための素材が見つからない。断念しかけたとき、知人を介して、豪州の先駆企業「ソーラチューブ」を知った。03年に契約を結び、採光ドームやアルミ製の筒を手にした。

 しかし、日本の住宅に設置するには問題が多かった。屋根に置く採光ドームを流線形の瓦の上にどう設置するか。少しでもすき間があると、雨漏りしてしまう。瓦は地域によって形が違う。苦心して専用の部品を作り上げた。試作品は100種類以上にのぼった。

 関西を中心に販売を始めて2年が経った頃、岩手県から設置したいと依頼が舞い込んだ。商圏を広げるチャンスだったが人材がいない。そこで考えたのが、地域の工務店を顧客から教えてもらうことだった。

 工務店に来てもらい、施工技術を指導した。広げたネットワークはそのまま販売網に。住宅用取扱店は、建設会社を中心に全国370社以上に増えた。

 井之商の社員はわずか13人。今年8月期の太陽光照明の売上高は約1億円だ。「10年後は100億円の市場になる。ゼロエネルギーの社会に挑戦する」。井上社長の夢は広がる。

■自然の光への「感動」、魅力の秘密〈記者の視点〉

 太陽光照明システムを1台設置すると、年7千?1万円の電気代の削減になるという。メンテナンスがいらないので、長い目で見れば元は取れる計算だが、数十万円の投資に見合うのか、思わず考え込んだ。

 だが、設置してきた住宅では必ず、その明るさ、光の優しさに感嘆の声が上がった。井上社長は「ちょっと高いシャンデリアをつけた感覚です」と説明する。

 節約効果や電力不足への心配ばかりではなく、自然の光の素晴らしさを再発見したときの素直な「感動」が、普及の理由につながっているようだ。

引用元: asahi.com(朝日新聞社):太陽光そのまま室内灯 家へ工場へ電力ゼロ照明 – 経済を読む – ビジネス・経済.

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