大震災による東日本の電力不足に関する緊急提言

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公益社団法人 化学工学会

2011年3月11日に、東北・関東地方を襲った地震・津波による激甚災害の犠牲者のご冥福をお祈りすると共に、被災された方の一日も早い復興を切に願っ ております。 さて、本災害に端を発する関東・東北地方の電力供給不足は深刻な問題で、東京電力管内では既に輪番停電が実施されています。5月には一旦終息に向かうとの 見通しがありますが、今夏の首都圏においては、ピーク需要時間帯である13-16時に約1000万kWの供給不足が懸念されています。大規模な計画停電を 伴わずに乗り越える方策について検討を重ねたところ、電力供給の積み増しや省エネ努力の継続は必要ですが、それでも数百万世帯分の電力が不足すると試算さ れました。我々は、それらの努力に加えてピーク時の電力需要を時間的および空間的にシフトさせることによって電力不足を埋めるための大規模な計画停電を回 避できる可能性があるとの結論に至り、このことを政策立案者への提言としてだけではなく、一般の方々にも知っていただくために広く公表する次第です。

1.はじめに

現在、未曾有の災害により東京電力管内の発電容量不足が顕在化している。各方面からのできる限りの協力を得て4 月中に4000万kW を確保予定であり、引き続く努力により夏には4600?4700万kW の発電容量を確保の見込みと報道されている。しかし、夏のピーク時には例年6000万kW を超える需要が、今年の夏には相当の節電協力を含めても5500万kWもの需要が見込まれている。このように1000万kWに迫る夏のピーク時の電力不足 を埋める目途が立たず、継続的な計画停電が避けられないと予想されている。この状況下において我々は、平成23 年夏のピーク電力に対し、過度のガマンや経済の停滞を伴わずに乗り越える方策について検討を重ねた1。また、化学工学会エネルギー 部会員、書籍「実装骨太」著者にエネルギー対策に関するアンケート(平成23年3月17日?25日)を行った。検討においてはエネルギー技術に関する専門 的知見を必要とし、現在も研究者間で試算と議論を重ねているが、平成23 年夏へ向けた対策を少しでも早く国全体で考えるために現段階の暫定的な検討結果にもとづいた提言を発信することとした。今後も様々な観点、角度からの建設 的議論を継続する予定である。より精度の高い解析や、今夏だけでなく、2?3年後、さらに先までを見据えた電力需給の議論の結果については、順次公開して いくこととしたい。

今回の議論において、夏の主たる課題はピーク電力需要(kW)の削減であり、平均的な電力使用量(kWh)の削減では事態の大きな改善が必ずしも期待できないことに注意する必要がある。

方策は大きく3 つに分かれる。第1に、電力供給力の更なる増加、第2に、待機電力のように常時発生している電力需要の抑制である。しかし、我々の試算では電力供給の増加ポテンシャルは365 万kW 程度、省エネによる総需要削減ポテンシャルは280 万kW 程度であり、東京電力の供給力と合わせても最大5300 万kW 程度であり6000 万kW に届かない。そこで、重要となる第3の方策が、電力需要の時間的シフト、空間的シフトで ある。電力需要は、天候や季節、時間により異なり、典型的には右下図のような構造になっている。震災直後の3 月現在はどちらかというと冬季の需要構造に近く、暖房需要が中心であるため、午前中や夕方に需要のピークが生じる。それに対し、夏の電力需要のピークは冷 房需要が大きい午後に生じるが、夏季といえども産業活動の少なくなる夜間や休日は平日昼間と比べ電力需要が小さいため、相対的には電力供給の余力がある。 また、震災被害を受けなかった地域では、電力供給力に相対的な余力がある。従って、電力供給に余力のある時間や地域へ、電力需要をシフトさせることで、予 測できない大規模な停電や厳しい電力使用量規制を避け、電力の需要に見合った電力を安定的に供給する可能性が拓ける。次節以降では、各方策の効果の推算根 拠を示す。

2.電力供給力の増強

電力供給は、東京電力が関係各所と連携を取り、鋭意検討を行っている発電所等からの電力供給と、太陽電池やエネファーム等、家庭や工場などで発電す る小規模分散電源による供給、災害時等非常用の電源がある。前者については、既に多くの報道もされていることから、補遺3 に状況をまとめ、コメントを加えた。太陽電池・エネファーム等分散電源は一般には電力需要削減の技術と位置付けられ、電気使用量・電気代の削減の観点で議 論されるが、このエネルギー危機において、積極的に電力供給のオプションとして活用するという意図をもって本節に記す。以下の方策を全て実施し、今夏まで に完了した場合、電力供給力を365 万kW 増加させることが可能と概算する。

2?1.太陽光発電

マイナスとなるような直接的影響は少ないと期待される。太陽光発電は太陽光さえあれば発電可能であり、災害時のライフラインとしても重要な役割を果 たし得るとともに、電力消費の多い昼間に発電するためピーク需要の削減の側面からも積極推進が望まれる。これまでの実績から夏までに新たに50 万kW の需要削減できる設備設置が可能と見込まれ、被災地に向けた一部海外メーカーからの無償提供の動きも存在する。また、太陽光発電導入時には電力モニタも導 入することになり、家庭内の電力消費量が見える化されるため、この節電効果も大きい。太陽電池の設置が間に合わなくとも、電力モニタのみを設置し家庭の電 力消費を把握することで省エネ行動を支援することも、将来のスマートメーターの先駆け的位置付けとして有効である。大規模導入に際しては、原料シリコンの 投機的価格変動も存在し、単なる設置助成金だけでない施策が望ましい。

2?2.蓄電技術

電力供給に余裕のある夜間の電力を用いたピーク電力カットのための蓄電技術としてはナトリウム・硫黄電池に期待したい。現在の生産供給能力から考え て、受注済みのものを優先的に融通してもらうなどの努力により平成23 年夏までに5 万kW 程度は可能と考えられる。それ以上の大規模な導入について平成24 年度以降に向けての検討課題である。プラグインハイブリッドなど電池を大量に搭載し、かつガソリン・軽油でも稼働できる自動車が普及すれば民生分野におけ る非常用電力確保に向けての有効な蓄電手段となり得るが、平成23 年夏の段階では現実的ではない。しかし、中・長期的にはそのような次世代自動車の普及は重要であり、促進のための施策を期待したい。

2?3.エネファーム・その他分散電源

太陽電池・蓄電池以外の分散電源として、各家庭やオフィスで発電するエネファーム等コジェネレーション技術が考えられる。コジェネレーション技術を 積極活用することで電力需要を削減することは、大規模発電設備の停止による電力不足のリスク分散にも資する方策である。コジェネレーション技術は、電気と お湯を供給する技術であり、現在は経済性の観点から給湯需要に合わせて稼働させており、夏季の運用は難しく稼働率は低い。しかし、ピークカット技術と位置 付けると、電力ピークが生まれる平日・晴天の午後に限定して、給湯需要ではなく電力需要に合わせて稼働させることは有効であり得る。このことにより既設の 設備からも、電力需要ピーク時における更なる電力供給が期待できる。余剰のお湯がローカルに冷房需要を生み出さないか検討や工夫が必要であるが、有効な方 策となるであろう。また、小型風力等の他の分散電源と合わせても平成23 年夏までに、10 万kW を超える規模の貢献は難しいかもしれないが、補助金の継続に加え、現在実現されていない電気の全量買い取り制度などによる政策的誘導が望まれる。また、阪 神淡路大震災の際にも設置された廃木材焼却発電などバイオマスの有効利用策も検討に値する。

2?4.防災用自家発電装置

新たな発電設備を導入することは、時間もコストも必要となることから、未利用の発電設備の積極活用は重要である。未利用の発電設備として大きなポテ ンシャルがあるのは、非常用電源である。病院や大きなビル施設には非常用電源の設置が義務付けられており、災害時等に外部電源が遮断されても短時間であれ ば稼働できるよう備えられている。この設備を電力ピーク時の想定外の停電という非常事態を避けるために活用することが可能であれば、最大300 万kW 程度の電力供給が可能であると概算される。夏の計画停電が毎日続けば同様のことをしなくてはならないことを前提にすれば、現実的な解の一つとなり得るが、 この実現のためには、法制度の見直しや備蓄燃料の供給体制の整備が必要である。しかし、発電装置の生産・供給に縛られることなく制度・体制の見直しで済む ことから、有効な施策として検討する価値がある。

3.電力需要の削減

社会的・経済的活動を損なうことなく、利用している電力の需要を削減できる方策として、省エネ機器の購入やライフスタイルの変化による以下の方策がある。以下の方策を全て採用した場合、機器による電力需要の削減によって170 万kW 程度、ライフスタイルの変化によって110 万kW 程度、合わせて280万kW 程度のピーク電力需要を削減可能と期待できる。

3?1.機器による電力需要の削減
  1. 旧式冷蔵庫の買い替え促進
  2. 冷蔵庫は旧式の機器では定常的に100W の電力を消費しているがその3 分の1 程度の省エネの最新機も販売されている。旧式のものの買い替えにより東京電力管内で60 万kW 程度の需要削減が可能と期待される。また、液晶テレビなどと異なり、冷蔵庫は容量の大きなものの方が消費電力は小さいため、買い替えに伴う大容量化は電力 需要削減にとって好ましく、エコポイントなどの施策は有効である。

  3. 高効率照明への買い替え促進
  4. 白熱電球・クリプトン球など低効率の照明の販売を停止しLED や蛍光管式など高効率の照明で代替する。オフィス・個別家庭も当然対象とするが、アパート・マンションの共用部、工場の水銀灯の高効率電灯化や、電球式信 号機をLED 式に置き換えるなどの効果も大きい。精査が必要であるが20 万kW 程度の需要削減は可能と期待される。

  5. 旧式エアコンの買い替え促進
  6. エコポイントを継続・延長し、新型のエアコンへの代替を促進するとともに、エアコンフィルタ掃除を推奨することで、50 万kW 程度の需要削減が可能と期待される。ここで、他項で挙げられる室内で使用する家電製品や電気機器の効率化や省エネ行動に伴って、室内の熱発生量が減少し冷 房負荷自体も減少するため、複数対策による相乗効果が期待できる点を付記する。

  7. 電気ヒートポンプのガス化(オフィス・家庭)
  8. 現在、電気により行っている空調をガスヒートポンプによる空調に置き換えることで、電力需要を削減することが可能であり、新設・代替時に政策的イン センティブを与えることが有効であると期待される。これまでの導入実績や政策的誘導により40 万kW 以上の需要削減が可能と期待される。

3?2.行動・ライフスタイルの変化
  1. 自動販売機の夏季期間またはピーク時間帯停止
  2. オフィスや各店舗で必要な業務に不便をきたしながら暮らすのではなく、本当に必要なものを除いて自動販売機の少なくとも温度調節の停止を呼びかけ、その分の飲料を小売店に供給することで25 万kW 程度の需要削減が可能であると概算される。

  3. オフィス・家庭のパソコン利用の工夫
  4. デスクトップパソコンはディスプレイと合わせ150W 程度の電力消費があり、電力需要の削減のポテンシャルが大きい。例えば電力ピーク時間帯にはデスクトップパソコンをシャットダウンし、ノートパソコンを電 源に繋げずバッテリー駆動させることで業務を継続したり別の業務に従事したりすることで、電力需要の削減に貢献できる。また、ディスプレイを2 台使用している場合は1 台を使用しない、などの省エネ行動が有効である。新規導入の際には省電力のノートパソコンを導入することも有効である。これらの行動に100 万人が協力することで15 万kW程度の需要削減が期待される。

  5. 電力ピーク時の電車の間引き運行
  6. 夏季の電力ピーク時間帯の本数を間引くことで20 万kW の電力需要削減が可能と期待される。必要に応じてバス等の増便の必要性も考えられるが、夏季の電力ピークは通勤・通学のピークと重複しないため、社会的に

  7. 待機電力の削減
  8. 待機電力の大きな家電や電子機器の電源コンセントを抜くことや便利な機能をオフにすることは有効である。最近では、例えばDVD やブルーレイレコーダーの起動時間を速くするモードでの待機電力は10?20W であり、それらモードの解除やコンセントを抜くことで10 万kW 程度の需要削減が可能と概算される。また夏季の電力ピークの時間帯に炊飯をすることはあまり想定されないが、保温するのではなく食べる分だけ炊飯したり、 冷まして保存し再加熱したりすることで夏季の電力ピーク時間帯における需要を削減できると期待される。

  9. テレビ視聴の停止
  10. 現在、地デジ対応のため、省電力型のテレビが十分に普及したものと考えられるが、それでもテレビは100W 程度の電力を消費する。電力ピーク時にテレビ各局で、「テレビを消すことで節電に協力できます」等のテロップを表示し、節電を呼び掛ける。全世帯の20% が協力することで最大40 万kW の需要削減が可能と概算される。また、消画モードで音声のみ聞くことも消費電力を半減する効果があり有効な対策である。

4.電力需要の時間的・空間的シフト

次に、電力需要の時間的シフトについて検討する。現在、いくつかの店舗等で営 業時間の短縮等の対策がなされている。これらは停電対策として機能する場合もあるが全く効果がない場合がある。例えば、24 時間営業の店が営業時間を10 時?19 時に短縮したとしても、総電力使用量の抑制には寄与するが、電力需要ピーク時の使用量の削減には寄与しない。またレストラン等で営業時間を変更することで 仮にピーク時に需要が集中することがあれば、停電対策としては負の寄与がある。以下にあげる対策はいずれも、夜間や休日といった平日昼間と比べ電力需要が 相対的に小さい時間、もしくは、電力供給に相対的余力がある地域へと電力需要をシフトさせるものである。したがって、万が一その方策が総使用量を増やすも のだとしても、電力供給余力のある時間や地域へ、電力需要をシフトさせることを真剣に考慮すべきである。ただし、空間的シフトに関しては、設備や生産の移 転といった構造調整には時間を要するため、今夏対策という点では、取り得るオプションは限られるかもしれない。以下の対策を実施することで、時間的シフト により670 万kW、空間的シフトにより95 万kW、合わせて時空間シフトにより765万kW のピーク電力需要を削減可能と期待できる。

4?1. 電力需要の時間的シフト
  1. 休日のシフト
  2. 前述のように、平日と比較して週末は電力供給能力に相対的余力がある。そこで、各業界の全面的な協力・連携のもと通常土日の休日を夏季期間のみ月火、水木などとシフトすることで270?320 万kW 程度の削減効果が期待できる。

  3. 勤務時間のシフト
  4. 現在交替制ではなく昼間のみ稼働させている工場・研究所等を夜間運転・夜勤に切り替える。例えば、大学での深夜研究・夜間授業などの検討も含め、 200 万人相当の勤務時間シフトにより300 万kW の削減効果が期待できる。三交替・二交替の勤務の場合でもピーク時間帯に数時間の協力が可能な業態も呼びかけたい。深夜勤務手当に相当する補助や減税など の施策、電車等公共交通機関の深夜(24 時間)運行の検討が求められる。

  5. シエスタ・在宅勤務の推奨
  6. 勤務時間を昼夜逆転することが困難な業種にあっては、昼休み時間帯を2?3 時間と長時間化したりピーク時間帯に昼休み時間帯を取ったりするような、勤務シフトを組むことで100 万kW程度の需要削減が期待できる。在宅勤務による勤務時間の裁量を増すことも有効である。

4?2. 電力需要の空間的シフト
  1. サーバー類を西日本や北海道へ移設
  2. 通信やデータサーバー等はユーザーにとって見えないインフラであり、どこに設置されていてもほぼ影響はない。そのようなサーバーを電力供給に余裕のある地域に移設することで30 万kW 程度の需要削減が期待される。

  3. 単身赴任でない居住地変更
  4. 産業界では経済活動を麻痺させないために、電力供給に不安のない地域に生産を移すことが検討されている。その際、エネルギー需要削減の観点からは、 単身赴任ではなく、家族全員が引っ越すことも重要である。現在の東電管内からの単身赴任家庭および今後の勤務地変更がある労働者に家族ごと居住地を変更す るインセンティブをつけることで、仮に50 万人が居住地を変更したとすれば最大50 万kW、100 万人であれば最大100 万kW の需要削減が見込まれる。

  5. 高等教育における国内・海外留学・インターンの促進
  6. 大学・大学院などの学生を中心に、夏季期間、電力供給に余裕がある国内の他大学での研究交流や、海外留学、国内・海外企業でのインターンなどを積極 的に奨励することで、東電管内の電力需要の削減が可能である。学部教育における他大学での単位認定の促進や休暇中の帰省の奨励なども含め、通常よりも10 万人余分に管外に移動したとすると最大10 万kW の需要削減が見込まれる。現在、原発事故に伴い渡航を見合わせている留学生に対する他地域への来日の暫定振り替えや大学間単位認定なども含め、様々な施策 が有効であろう。

  7. 他地域への観光誘導
  8. 夏季における長期休暇の取得を奨励するとともに、他地域への観光を誘導することは需要削減につながり、地域振興などと連携した施策となりうる。この ことによる定常的に5 万人分の旅行者増があったとすると最大5 万kW の需要削減が見込まれる。暑い日は涼しい地域への観光や少電力消費型の娯楽施設を安くするなどの施策も有効である。

5.提言

以上の分析に基づき、我々は以下の提言を行う。

1)大規模計画停電回避のための方策の協調的実施

今回、我々は大規模計画停電回避のための方策として、電力供給力の増加、電力需要の削減、電力需要の時間的・空間的シフトを提案し、それぞれのピーク電力需要に対する効果を365 万kW、280 万kW、765 万kW と概算した。それぞれ、120 万世帯、90 万世帯、250 万世帯分以上に相当する。数値の確度、各方策間の相乗・相殺効果、実現可能性に議論の余地は大いにあるが、生活・経済に支障をきたす大規模な計画停電を極 力回避するためには、単に供給力の増強や需要削減だけでなく、電力需要を時間的・空間的にシフトさせることが不可避であることを示した。提案した方策は、 明日から容易にできることと少し時間がかかるもの、大きな努力や仕組みづくりが必要なものを含んでいるが、過度のガマンや経済の停滞を伴わずに夏のピーク 電力に対応するための指針となるものと信じる。特に電力需要の時間的・空間的シフトを無理なく実施するには幅広い関係者の協調的な行動が不可欠であり、産 官民を挙げての協力・仕組みづくりに早急に取り組むことを提案する。

2)電力需要データの開示

電力需要の見える化が重要である。3 月22 日より、東京電力において電力の使用状況が1 時間当たりの平均需要グラフとして見える化されたことは評価に値する。今回は、電力需要をシフトさせる効果についておおまかな試算を行ったが、電力需要の 見える化により、具体的にだれがいつどのようにシフトさせるか、その効果はどのぐらいかということについて検討が可能となるだけでなく、なぜする必要があ るかを各人が判断し、納得した上で、行動することができるようになる。また、さらなる見える化努力として、よりリアルタイムに近い形で情報提供することに より、消費者が想定外の大規模停電を避けるために効果的に行動することが期待できるであろう。節電の方策を継続的に議論する上でも、電灯・電力の別、およ び地域別に電力需要をリアルタイムで見える化し、提供されるようにすることが重要である。さらには、一ヶ月後、二ヶ月後の平日・休日・天候ごとの電力需要 予測結果を見える化することも工場や店舗の営業計画等の策定に重要であり、直近数年程度の電力需要の詳細を開示することを提案する。

3)電力供給中期見通しの提示

現在、今夏の発電容量見込みに関しては報道されている。今夏を乗り切るために、電力需要の時空間シフトが必要であるが、では例えば、会社員が西日本 に移転するとしていつまで移転を続ければ良いのであろうか。現在、経済面で懸念材料となってきているのは、見通しが立たない中での、企業の海外流出であ る。見通しが不明であるために、必要以上の流失を招く可能性が出てきている。確度は高くなくとも今夏以降?数年後までの見通しを示すことで、国民や企業に 対する指針を提供することは重要である。新たな電力供給源の製造や建設について、一電力事業体のみならず官民一体となって議論し、成案を得てそれを示すこ とを提案する。

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補遺1 提言執筆者リスト
古山通久 九州大学稲盛フロンティア研究センター/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
梶川裕矢 東京大学大学院工学系研究科
加藤之貴 東京工業大学原子炉工学研究所
菊池康紀 東京大学大学院工学系研究科
窪田光宏 名古屋大学大学院工学研究科
中垣隆雄 早稲田大学創造理工学部
福島康裕 台湾国立成功大学環境工程学系
松方正彦 早稲田大学先進理工学部

補遺2:産業・家庭の電力使用者側の方策効果概算値のまとめ

電力供給力の増強
太陽光発電
蓄電技術
エネファーム・その他分散電源
防災用自家発電装置
50
5
10
300
電力需要の削減
機器による電力需要の削減 旧式冷蔵庫の買い替え促進
高効率照明への買い替え促進
旧式エアコンの買い替え促進
電気ヒートポンプのガス化(オフィス・家庭)
60
20
50
40
行動・ライフスタイルの変化 自動販売機の夏季期間またはピーク時間帯停止
オフィス・家庭のパソコン利用の工夫
電力ピーク時の電車の間引き運行
待機電力の削減
テレビ視聴の停止
25
15
20
10
40
電力需要の時間的・空間的シフト
電力需要の時間的シフト 休日のシフト
勤務時間のシフト
シエスタ・在宅勤務の推奨
270
300
100
電力需要の空間的シフト サーバー類を西日本や北海道へ移設
単身赴任でない居住地変更
高等教育における国内・海外留学・インターンの促進
他地域への観光誘導
30
50
10
5
1410

補遺3 系統電源の供給力増加のための方策

  1. 周波数変換による60Hz 地域からの送電
  2. 供給力が不足する東京電力管内の周波数は50Hz であり、中部電力・北陸電力以西の60Hz の電気をそのまま送電できない。佐久間(30 万kW)、新信濃(60 万kW)、東清水(10 万kW)に50/60Hz 周波数変換設備があり,既にこれらを経由して中部電力は100 万kW を融通している。周波数変換所をこの夏に向けて新設することは工期上不可能で、唯一あり得る増設は、東清水変電所である。東清水変電所では周波数変換の容 量自体は30 万kW あるが、送電線の増設が計画段階にあり、この敷設の前倒しは急務と考えられる。また、5 月までに、東清水を13 万kW へ前倒し増強することが既に報道されている。

  3. 60Hz 水力発電所の50Hz 化
  4. 周波数変換による送電だけでなく、60Hz と50Hz の境界付近の発電所において50Hz で発電して直接送電する努力もなされており、実際に,関西電力では長野県の御岳・寝覚の水力発電所を50Hz 化し7 万kWを東京電力に送電する準備を進めている。また、中部電力からも泰阜水力発電所から2 万?4 万kW、佐久間・秋葉系水力発電所から最大で23.1 万kW 既に融通されている。

  5. 北海道・本州連系設備による送電
  6. 現在、海底ケーブル3 本が敷設されている北海道・本州連系設備を通して、北海道電力から東北電力を経由して送電することができる。北海道電力も50Hz ではあるが、本州の50Hz とは同期しておらず、北海道・本州連系は直流送電で容量は60 万kW となっている。北海道は夏の冷房需要は小さく発電容量に余裕があるため、これまでも東京電力管内への送電実績がある。現在、さらに4 本目の海底ケーブルの増設計画中とされるが、工期短縮のために青函トンネルを活用し、変換所を増容量することで約30 万kW 程度の増強が早期に可能ではないかと考えられる。30 万kW の増設で600?900 億円との試算もあるが、将来的な電力供給余力の確保に向けて推進すべきである。

  7. 常用自家発電機からの余剰電力送電
  8. 大きな工場や特定規模電気事業者は常用自家発電機を持っており、工場内の電力需要が低い時や電力需要のひっ迫時には逆潮流により東京電力に売電している。 大口の事業所は夏季において余力がない場合が多いと考えられるので、小口の事業所の中で余力のある箇所や逆潮流なしの契約事業所の洗い出しにより供給量を 増やせる可能性はあるが、供給可能量は精査する必要がある。

  9. 火力発電の増設
  10. 東京電力では30 万kW 程度のガスタービン発電設備の増設による火力発電容量の増強を発表している。これは現実的には数百?数千kW のものを数十台導入する計画と推定される。運転開始まで数年かかる最新鋭の火力発電所の発電効率の6 割程度の効率しか見込めず、将来的な発電コスト・省エネ・環境負荷の観点からは望ましくない。また、電力系統の周波数統一の可能性も再度模索する必要があ ると考えられることから、60Hz に対応可能な設備として導入することの重要性も指摘したい。

電力供給側の方策
周波数変換による西日本からの受電 佐久間周波数変換所
東清水変電所
新信濃変電所
30
13
60
西日本発電所の50Hz化 長野・静岡の発電所を50Hzにする 7
北海道電力からの受電 北海道からの送電 60
常用自家発電機からの余剰電力受電 IPP
火力発電の増設 GT
上記+稼働中・稼働予定発電所
30
45

参考

1. 検討にあたり、化学工学会エネルギー部会、書籍「実装可能なエネルギー技術で築く未来―骨太のエネルギーロードマップ2―」(実装骨太)の著者、関 連の研究者・技術者から多くの提案をいただいた。この危機を乗り切るために少しでも自分に貢献できることはないかとの思いからの、多くの無償の貢献に感謝 する。今回は記述しきれなかったが、様々な提案をいただいた。それらの案の一部をここに列挙する。

  • 電力料金や契約電力量の見直し
  • 石油石炭税の見直し
  • 機器の200V 化
  • 窓への赤外線カットフィルム設置
  • スーパー等の冷凍
  • 冷蔵陳列棚にカバー設置
  • 不要不急の機器の停止
  • サーバー等高効率機器の導入やクラウド化
  • 消灯
  • エコ冷房など省エネ行動
  • ドイツのフィフティ
  • フィフティ制度の拡大導入
  • 契約
  • 事務手続き等を簡素化する
  • 暑気払い特別休暇など午前のみ勤務の奨励
  • 「暑さ」を楽しむ
  • 省電力の上工程を東日本で、電力多消費の下工程を西日本でなど製造プロセス分業化

引用元: 大震災による東日本の電力不足に関する緊急提言 /公益社団法人 化学工学会.

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