日本が今後採るべき電力供給戦略について

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まず、今回の東日本太平洋沖地震とそれに伴う津波によってお亡くなりになった方のご冥福を祈るとともに、被災された方が一日でも早く元の落ち着いた 生活を取り戻せるよう願いたいと思います。また、福島第一原子力発電所の事故が一刻も早く解決し、住民の方々が安心して暮らせる環境を取り戻せることを切 に願います。

今回の事故を受け、また原発反対派と推進派の議論がかしがましいようです。事故が起きたこともさることながら、さすがに今回の東京電力原子力安全・保安院が見せた情報の齟齬、隠蔽、判断ミス、現場丸投げといった失態を受けて、なお原子力発電所の建設を受け入れようという地方は今後出てこないでしょう。本来なら政府の失態も大々的に指弾すべきですが、この稿の目的ではありませんので、今回は割愛します。

さて、原子力発電所を新設することは限りなく不可能に近い情勢になりつつありますが、現在事故もなく稼働中の原子力発電所もいずれは老朽化し廃炉しなくてはなりません。そうなった時、石油をどんどん輸入して火力発電所を 増設すればよいかというと、そうは問屋が卸しません。1979 年 5 月に行われた第 3 回国際エネルギー機関 (IEA) 閣僚理事会において、「石炭利用拡大に関するIEA宣言」の採択が行われています。この宣言には石油火力発電所の新設禁止が盛りこまれているため、石油火 力発電所は新設することができません。事実、日本はこの 30 年、石油火力発電所を建造していません。では、LNG石炭で よいではないかと言われそうですが、石油同様、どちらも国内にはほとんどありません。従って輸入に頼ることになるのですが、今回の日本の事故を受けて各国 とも電力政策を再検討することがニュースで伝えられているとおり、今後その価値が上がり、重要度の高い戦略物資として取引されるようになると思われます。 当面は仕方ないとしても長期的には、わざわざその輸入依存度を引き上げる選択肢を取ることに私などは二の足を踏んでしまいます。そこで代替発電方式が問題 に挙がってくるのですが、原発推進派は以下の点を主張して、原子力発電以外に現実的な選択肢はないと言います。

  • CO2 を排出せず、環境に優しいクリーンなエネルギーである。
  • 発電原価が、5.3円/kWhと他の発電方式に比べて安価である。

CO2 を排出しないのは事実ですので、環境に優しいかどうかは置いておいてこれはまあ認めるとしましょう。

とすると、発電原価が専ら問題になるわけですが、2003年12月16日に電気事業連合会が発表した「モデル試算による各電源の発電コスト比較」を参照してみましょう。

コスト試算例 (設備稼働率 80%) 1??時あたり
■40年運転の場合 (割引率 3%)
原子力 5.3円
石炭火力 5.7円
LNG火力 6.2円
石油火力 10.7円
水力 (稼働率 45%) 11.9円
■法定耐用年数運転の場合 (割引率 3%)
原子力 (16 年) 7.4円
石炭火力 (15 年) 7.4円
LNG火力 (15 年) 7.2円
石油火力 (15 年) 12.4円
水力 (40 年) (稼働率 45%) 11.9円

以上の値は、資源エネルギー庁の「バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等の分析・評価」にも記載されています。
これに対して、再生可能エネルギーを利用する代替発電方式のコストはどうでしょうか。

代替発電コスト試算例 1??時あたり
太陽光 (稼働 12%) 42.0円
風力 (稼働 20%) 10.0〜14.0円
地熱 (高温岩体発電) 9.0円
波力 30.0〜40.020.0〜30.0円
潮力 ??円

太陽光発電の原価は

システムの寿命 20年
システム単価 66.1万円/kW
借り入れ利率 4.0%
返済期間 15年

で計算しています (以上は「我が家のオール電化&太陽光発電」さんの「太陽光発電の発電コスト」のページからの引用です)。このあたりは、現在でもあまり変わっていないようです。風力発電の原価は資源エネルギー庁の「平成21年度エネルギーに関する年次報告」から引用しています。地熱発電 (高温岩体発電方式) のコスト計算は、財団法人 電力中央研究所が発表した「電中研レビュー No.40 未利用地熱資源の開発に向けて (2003年 3月)」の「第2章 高温岩体発電の開発」から引用しています。波力発電の単価は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の「NEDO再生可能エネルギー技術白書」中の「6 波力発電の技術の現状とロードマップ」より引用しています。潮力発電については原発よりコストが安いという記述はよく見かけるものの具体的な試算例を見つけることができなかったので、考察の対象外にします。

これを見ると、太陽光発電は 分が悪いようです。これは専ら電池の価格によりますから、需要が増大して大量生産効果で価格が現在の五分の一近くまで下がらないと本格的な普及は難しいで しょう。今の価格では金持ちの道楽に過ぎません。もちろん、新築や改築の家屋に設置を義務づけるなどすれば普及は早まるでしょうが、現在の経済情勢ではそ んな施策が現実になるとも思えません。何より、大容量の電力が必要な工業用途には役に立ちません。

風力発電も割高となっています。犬吠埼に大量の風車を設置すれば、東京電力が供給している電力をすべて賄えるというデマが Twitter で取りざたされ、色々まとめがありますが、「Kazzy65536の戯言」さんの「2月26日の記事」にもある通り、犬吠埼に吹く風はそれだけのポテンシャルがあるというだけの話で、それを電力に変えるためには房総半島南端から茨城県鹿島灘沖までの海岸に沿って沿岸から沖合50kmまで風車をびっしりと建てれば、東京電力が供給している電力の半分を発電することができる…というおよそコスト度外視、実現度度外視の話です。詳しくは「東京大学 工学系研究科 社会基盤学専攻 橋梁研究室 石原教授のページ」にある原著論文のリンクから辿れる論文「メソスケールモデルと地理情報システムを利用した関東地方沿岸域における養生風力エネルギー賦存量の評価」を参照して下さい。

どうやら、風力発電太陽光発電ともコスト面では太刀打ちできそうにありません。オール電化を引き合いに出すまでもなく現代文明は安価な電力調達が暗黙の前提になっていますから、コスト高というだけで受け入れられません。また、太陽光発電は日射量に、風力発電は風量に発電量が左右されますから、工業用の安定電源としては今ひとつ信頼できません。

波力発電はコストの低減が課題ですが、太陽光風力と異なり、安定電源とすることができるので、期待が持てます。潮力発電は海外の事例はあるものの、日本は発電に利用できるほど潮位に差があるところが限定される上、海洋環境に与える影響が未知であり、実質的にまだ研究段階と言えます。

とすると、現時点で有望な代替発電方式は、地熱発電ということになりますが、やはりコスト面で太刀打ちできません。日本はこれからも原子力発電に電力を依存するしかないのでしょうか。

ところが、ここに面白いデータがあります。

各電力会社は原子力発電所を建設する際に、「原子炉設置許可申請」を経済産業省へ提出しなくてはならないのですが、そこには発電原価について試算して結果を記載しなくてはならないことになっています。東京電力が提出した申請では、原子炉ごとの試算は以下のようになっています。

東京電力の設置許可申請書に記載された発電原価
発電所名
(設備番号)
認可出力
(万kW)
電源開発
調整審議会
決定年月
原子炉設置
許可年月
運転開始
年月
建設単価
(万円/kW)
発電原価
(円/kWh)
試算
方式
福島第二 1号機 110.00 1972/6 1974/4 1982/4 約25 10.32 初年度
〃  2号機 110.00 1975/3 1978/6 1984/2 約23 10.79 初年度
〃  3号機 110.00 1977/3 1980/8 1985/6 約29 14.55 初年度
〃  4号機 110.00 1978/7 1980/8 1987/8 約25 13.43 初年度
柏崎刈羽 1号機 110.00 1974/7 1977/9 1985/9 約33 14.04 初年度
〃  2号機 110.00 1981/3 1983/5 1990/9 約36 17.72 初年度
〃  3号機 110.00 1985/3 1987/4 1993/8 約31 13.93 初年度
〃  4号機 110.00 1985/3 1987/4 1994/8 約31 14.24 初年度
〃  5号機 110.00 1981/3 1983/5 1990/4 約42 19.71 初年度
〃  6号機 135.60 1988/3 1991/5 1996/11 約31 11.24 耐用年
〃  7号機 135.60 1988/3 1991/5 1997/7 約28 10.37 耐用年

おや? 軒並み 10 円 /kWh 越えで、中には 20 円 /kWh 近い炉まであります。これはどちらを信用すればよいのでしょう?

もちろんどちらかと言うことであれば、設置許可申請書に記載されている方です。なぜなら、「モデル試算による各電源の発電コスト比較」や「バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等の分析・評価」で示された原価は、現実には存在しない理想の原子炉モデルにおける原価だからです。

実は原子力発電の原価が安く見える絡繰りはこれだけではありません。

まず、税金による補助があります。もちろん他の電源にも補助は出ていますが、1.5 円/kWh も出ているのは原子力だけです。さらに揚水発電の費用が織り込まれていません。なぜ揚水発電が関係するかと言えば、揚水発電所は、オフピーク時には余る原発の電力を再利用しようとして、あちらこちらに設置されたものだからです。少なくとも日本では、原発は需要に応じて発電量をほいほい減らしたり増やしたりするようなことができないことになっています。そのため、余った電気をどこかで使う必要が出てくるのです。揚水発電所が水力発電所に併設されていることから、揚水に使用する電力は水力発電所の電力をそのまま使用しているかのごときイメージがありますが、水量当たりでは水力発電の1.3倍の電力を揚水に必要としますので、実は他所から持ってこないといけないのです。で、どこから持ってくるかというと、出力調整が難しいと言われている原子力発電からとなるわけです。揚水発電は、50 円/kWh もコストがかかるため、安いとはとても言えません。加えて送電ロスの問題があります。東京電力原子力発電所が福島県に置かれていることからもわかるように、原子力発電所は 実際に電力が消費される地域から遠隔地にありますので、発電した電力を送電する過程でロスが出ます。送電ロスは距離に比例し、全国で 5% の電気が使われることなく消えている計算になります。このコストも原価には含まれていません。さらには、廃炉のコストも問題です。一応、原子力発電設備解体引当金制度というものがあり、電力会社が費用の積み立てを行っています。例えば福島第一原子力発電所で最も大きい 6 号炉の場合、廃炉費用は約 200 億円程度と見積もられており (詳しくは、日本における原子力発電所解体放射性廃棄物処理処分費用の試算 (1998 年) をご覧下さい)、これらの費用は原価計算には含まれているものの、日本では商業炉を廃炉したことがない上、放射線まみれの炉を安全に廃炉する方法が確立されているはずもなく、本当にその費用だけで安全に廃炉できるのかどうかはやってみなくてはわからない状態にあります。

これだけでももう電力会社から出されている数字が怪しいと疑うに充分ですが、原子力発電の問題はこれだけではありません。

原子炉と言えども稼働させっぱなしでよい訳ではなく、むしろ安全を確保するためには定期的に停止して点検しなくてはなりません。原子炉の炉心など、うっかり踏み込めば即、死にます。もちろん防護服を着て作業するわけですが、こんな話があります→「日本の原発奴隷」。また、元GEの技術者で原発反対派の菊池洋一さんの講演→「命はほんとうに輝いている」。私はこれらを読んで、ぞっとしました。自分たちには関係ないからと無関心でいてよいことではありません。つい先日も福島第一原子力発電所の復旧作業をしている作業員の方が 3 名被曝して病院に搬送されましたが、被曝の原因について、東京電力「前日の現場調査の際は水はほとんどなく、線量も低かった。このため、線量計のアラームが鳴っても故障と思い込み、作業を継続したとみられる」と正気を疑うような言い訳をしています。この常軌を逸した感覚が作業員の安全に無頓着な運用に繋がり、日本の原子力開発史上最大の事故を招きながら具体的な対策もなく、「想定外の災害」「苦慮している」などと言い訳しかできない東電保安院の現状を産んでいるのです。言葉を代えれば、危険性を熟知せず、問題が起きても何とかなるだろう程度の考えで、なあなあで運用を続けてきたツケが回ってきているのです。今回は致命的な事態は回避できそうですが、次もそうであるとは断言できません。そして、これが東京電力だ けで他の電力会社は違うと言うことはできません。むしろ他も同じと想定するのが常識です。次が起きた時、どんな事態が出来してどれほどの被害を誰が被るか わかりません。そうなる前にそんな運用をしなくてもすむ体制を作るのが正しい危機管理というものです。この場合運用者が信用できないわけですから、すぐに は無理だとしても、そんな運用者でも何とかなる方式を採用していくべきだと考えるのが理にかなっています。

もちろん地熱発電や他の代替発電方式にしたところで、発電に適した地と消費地は遠隔になるでしょうから、送電ロスは同様に見込まれるにしても、異常にコストがかかる揚水発電所を設ける必要はありません。何より被曝を警戒しながら作業をする必要がありません。

試算だの予測だのでは信頼ならん。実績のあるデータを示せという人もいるでしょうが、それは無理というものです。なぜなら、どの電力会社も実績原価を公表していないからです。私などこの一点だけを以てして胡散臭い印象を抱いてしまいます。オイルショック当時は火力発電に代わる現実的な発電方式は確かに他にはありませんでしたし、原発を推進するのもやむを得なかったと思います。しかし、21世紀の現代にあって、他の方式を検討することもなく、原発一本槍というのは、政治的にも大いに疑問のあるところだと言わざるを得ません。実際、原発の建設、維持には莫大な資金が動きますから、その利権を巡って魑魅魍魎がうごめくのも当然で、長年稼働してきたという実績から既得権として、撤廃に猛反対する勢力があることも理解できます。しかし、今回の事故で図らずも露呈したように、東京電力は もとより、政府すら、ごまかし、言い逃れに終始するばかりで、後は現場に丸投げという姿を見れば、いざという時の処理能力など実はなかったことが明らかで す。予想された事故に対して現実に組織だって対応できないのですから、「原子力は安全」という謳い文句はただの妄言だったことがわかります。そんなちんけ な既得権と国民の生命を天秤にかければ、国民の生命に軍配が上がるのは当然で、利権に与って生活している会社が倒産しようが従業員が路頭に迷おうが、断固 とした意思を示さねばならないのではないでしょうか。

また、東電保安院も政府も今回の事故を「想定外の災害」が原因かのように訴えていますが、日本が周期的に大地震に見舞われることは周知の事実であり、地震の際には津波が発生することが多いこともまた、周知の事実です。今回は、M9.0という1000 年に一度あるかどうかという大規模な地震でしたし、その後太平洋岸を波高10メートル越というとんでもない津波が襲ったことも確かです。しかし、Wikipedia を調べるだけでその規模の津波が過去何度も日本を襲ったことはすぐにわかりますし、何より、1896 年の明治三陸沖地震では、波高 38.2メートルという俄には信じがたいほどの津波が他でもない東北地方を襲っています。さらに、1933 年の昭和三陸沖地震でも津波により現宮古市にあたる田老村は更地になっています。波高が 10 メートルを越える津波は他の地方でも記録されており、想定外などとんでもないことで、素人にでも災害の想定ができたのです。彼らの言う「想定外」が「原子炉の設計上想定していない災害」であるなら確かにその通りですが (設計を担当した元東芝社員がそのように証言しています)、そんな設計を許可した連中に責任があることは明白です。災害そのものは「想定の範囲」にあるものだったのですから。ではなぜそんな設計にしたかですが、これはもうコストを切り詰めるためです。例えば、元GEの技術者であるデール・ブランデンボー氏のインタビュー記事を見ればそれは明らかです。もちろん今回のような津波にも耐えるように発電所を設計することもできたのですが、そうすると建設費が高騰して、供給する電力が安いとは言えない原価になってしまいます。ここまで申し上げればおわかり頂けるように、原子力発電が安価であるのは、単に計算上のことで、実際は火力発電はもとより、地熱発電などに比べても高コストで、しかも今回のような事故が 起きれば被害額は極めて巨額に達し、そのリスクを織り込めばコストなど計算することも馬鹿馬鹿しいほどの高額になることが明らかになったと思います。もち ろん、だからと言って一部の過激な人たちが言うようにいきなり原発を全廃できるはずもありません。今や日本の電力に占める原子力発電の割合は無視できるものではありません。関西電力など、発電量のほぼ半分を原子力発電で賄っています。しかしながら従来の対策では不充分であることが今回の事故で明らかになったわけですから、発電所の大規模な改修は必須でしょう。そうなるとますます高コストな電力となってしまいます。

こうして見ると、原子力発電に代わる代替電源は絶対に必要です。上の表で見た通り、地熱発電がコストも安く、何より全国で 18 カ所の地熱発電所が今現在既に稼働しており、合計 535.2 メガワットの電力を産み出していることを考えると、最も妥当な選択肢になると思います。原子力発電所に代わる高温岩体発電所の 建設を真剣に検討すべきではないでしょうか。また、現在はまだ研究段階ですが、マグマ溜まり近傍の熱を利用するマグマ発電は、日本の全電力需要の3倍近く を賄うことができると言われています。放って置いてもあちらこちらの火山から噴火という形で無駄に消費されてしまうエネルギーなのですから、これを利用し ない手はないでしょう。実際、他国からすると日本の地熱状況は垂涎ものだと言われています。今回の事故を真摯に反省し、さらに将来のエネルギー需要にも対 応するなら、原子力発電に対する依存を段階的に減らしていきながら、一刻も早く地熱発電を普及させる政策が今の日本には求められていると考えます。

引用元: 売国奴お断り.JP ? 日本が今後採るべき電力供給戦略について.

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